それでも

完全自己満足のCH二次創作ブログです。 想いのままに書き散らかしています。

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captivity(12)

ようやく完結です。










「――で?」

「それからはずっと自室に籠もっている」

「そうか・・」

「・・どうする?」

「もちろん、会いに行くさ」

「・・・簡単には行かんぞ?」

「ああ・・・、覚悟の上だ」

リョウが笑ってそう言うと、海原もまた目を細めた。
近くにいた女を呼ぶと、コウの部屋へ案内するように言った。





「・・・コウ?入るよ・・・?」
女はそっと襖を開け、中の様子を伺う。今朝持ってきた膳に手がつけられていないことを確認すると、また口を開いた。

「コウ、また食べへんの?いい加減何か口に入れんと・・・」
心配そうにコウに声をかける女には西のなまりがあった。
膳を持って出てきた女は眉を下げて

「・・ほな、よろしゅう頼んます」
と小声で言って去っていった。


襖をゆっくりと閉める。
トンっという軽い音がした。

コウは布団をかぶっていて、リョウのところから顔は見えない。
コウが起きていることを半ば確信したリョウは、そっと声をかけた。



「コウ・・・?」


すると、布団の上からでもわかるほどコウの体が揺れた。
リョウは小さく息をつく。


「・・・おまえ、何日メシくっ」

「出てってよっ!!」


突然張り上げたコウの声にリョウはわずかに目を開く。

「・・で、出てってっ!!もう来ないでっ!」
威勢の良い言葉とは裏腹に、コウの声は濡れていた。


「そう言われてもな・・・。俺、おまえの返事まだ聞いてねぇし」
「・・!だからっそういう冗談っ・・やめ、やめてよっ!!」
人の真剣な告白を冗談だと?コラ、ちょっと待て、とリョウはコウの布団を剥ぎ取る。
 
「ちょ、や・・だっ・・・!」
コウの抵抗を難なくかわし、両腕を縫い止める。
やはり、泣いていた。










「・・・っ・・で、できなかったのっ!」







「客を取ったの、でもできなかったの!・・ぅっ、あ、あんたを思い出して、泣いてしまったのっ!最中によっ!?ゆ、遊女のあたしが、客を取れなかったのよっ!!・・・ぅ・・もうやだっ、あんたといるとあ、あたしじゃなくなるっ!あんたといるとあたしは弱くなるっ・・ぅっ。こんなんじゃ、だ、だめなの!・・・だからっ、もう来ないでっ!!」




言うだけ言うとコウはまた泣き出した。


リョウが腕をゆるめると、顔を手で覆い隠して泣いた。
時折、涙声が混じる。

「・・ぅっ、・・・ぅう・・っ・」


しばらく黙っていたリョウは、コウの背中に両腕を入れると、掬い上げるように抱き上げた。
膝の上にコウを抱く。

嗚咽をしながら泣くコウを、リョウは正面から見つめる。


「・・・海原の了承はもらった」

もちろん、「何の」なんて言われなくてもコウには分かる。だからコウの目に一瞬の動揺が走った。

「あとは、・・・おまえの返事だけだ」


この男は何度同じことを言わせれば気が済むのかと、コウの眉が頼りなく下がる。


「・・あっ、あたしは遊女なのっ・・、いろんな男に抱かれて来たのっ・・ぅ・・・」

「これからは俺が死ぬほど抱くし」

「・・・あたしにっ、かか・・わるとっ、む、昔みたいなっ・・ことにっ・・」

「俺の鉄砲見ただろ?俺は堅気の人間じゃねぇからな、危険な目に遭うとしたら、むしろおまえだ」

「・・・・・・あっ、あた、しはっ、・・すぐっ・ぅ・・泣くしっ・・、わ、わがま、ま・・だしっ・・」

「あ、俺。そういうの平気だから。むしろ惚れた女だったら大歓迎」

「・・・・ぅっ・・ぅ・・・」



コウはしゃくりあげる息を落ち着かせようと一度声を止めると、意を決したように言った。

「・・あたしにはっ、わ、忘れられないっひ、人がいるのっ・・ぅ・・・。そ、その人はっ、・・・あたしっのせいっ・・で、・・しっ、死んじゃったのっ・・ぅ・・・。・・・だかっ、だからっ、あたしっ・・には・・・ふ、ふつうのせ、生活を、・・ぉ・・おくっ、る権利は、なっ・・ないのっ・・・!」


ようやく自分の気持ちを吐露した女を、リョウは目を細めて見る。
とめどなく溢れてくる涙を、そっと親指でぬぐう。







「・・・そんなの、忘れられなくて当然だ」








リョウは静かに、しかし有無を言わせぬ強さで言った。

「おまえが自分の命を懸けてまで助けたかったんだろ?忘れられなくて当然だって」

しゃくりあげていたコウが、ようやくリョウの顔を見た。

「兄貴を愛したのも、家族を守りたかったのも、守るために自分を売ったのも、必死に自分の感情を殺してきたのも、自分だけ幸せになれないと思っているのも、今こうやって泣いているのも」

リョウは言葉を続けながら両手でコウの頬を包む。

「全部、おまえだろ。俺は、そんなおまえがいい」

瞬間、コウの顔がくしゃっと歪む。リョウの手に大粒の涙がいくつもこぼれ落ちる。

泣いたせいもあってか、いつもより紅くぷっくりとした弾力がある。リョウが顔を近づける。
瞳の中にお互いを写す距離になると、リョウはずっと閉まっていた言葉を口に出した。












「香」











わずかに目を見開いた女はしかし、つぼみが開くように微笑んだ。それを合図に二人の影が重なる。
無理矢理奪うのではないその口づけは、リョウの心に甘い嵐を呼び起こした。


最初は興味本位だった。
遊女という仕事をしていながら、あえて客を取らないというところに興味を持っただけだ。
自分はもっとしなやかで、色香の漂う女が好みだった。
それがどうだ。
意外な胸の豊満さや手に吸い付く白い肌、ほんのり色づく頬に少し鼻にかかった声。
一度だけでは足りなくて、何度も何度も求めている自分がいた。
何日か日を空けると、他の男に抱かれているんじゃないかと思っては胸を焦がした。
遊女に本気になったのかと自嘲したが、でもその思いは消えなくて。

体だけじゃない。
この女の笑った顔が見たい。眉を歪めて泣く顔が見たい。
作られた顔じゃなく、本当の表情が見たい。

そう思ったとき、これが「惚れる」ということなのかと自問自答した。
未だかつてない経験に戸惑いもしたが、答えは決まっていつも同じだった。



「この女を自分だけのものにしたい」




唇を名残惜しそうに離すと、頬をそめた香と目があった。

(もっとすごいことだってしてるのに今更・・・)


漏れそうになる笑いをリョウはこらえ、香から視線をはずさずに言う。

「無理に忘れる必要なんてない。ただ――」


ただ?と次を促すように香は首をわずかに傾げる。どこか不安げな顔がたまらないと思うのは、惚れた弱みか。


「ただ、自分のせいだとか、そういった思いは捨てろ」

わずかに香の肩と瞳が揺れる。

「必要以上に昔に縛られるのは、俺が許さん」

慈しむような瞳のリョウの声はしかし、有無を言わせない迫力があった。




「・・・ぃ・・・の・・?」

かろうじて聞こえた語尾に、リョウの眉が寄る。
「・・・いいの・・・?」

きっと自分自身に向けて言った言葉だろう。

大切な人が自分を助けに来たばかりに殺された。両親もきっと自分を拾わなければ、育てなければ殺されることはなかった。だから自分はもう他人と関わりを持たない。あのときのような思いをしないために。
それが自分にできるせめてもの償いだと信じて。

そういう思いを、この女はどれほどしてきたのか。
自分を責め続けていたに違いない。

「いいんだ」


リョウは呪文のように何度も繰り返し、香を抱く腕に力を込めた。
香はそっと瞳を閉じる。

今こうして男の腕の中にいること。
その男を前に、らしくもなく自分の感情をむき出しにしてしまったこと。
自分の過去を吐露してしまったこと。
それを男が受け入れてくれたこと。
この男と一緒にいたいと思っていること。
この腕が、心地よいと思っていること。

まさかこんな日が来るなんて。



香は「は」としたように顔を上げると至極真面目な顔で言った。

「あんたのところには何人女がいるの?あたしは何番目?」

香の抱き心地を堪能していたリョウはしかし、今の言葉でパチパチと瞬きをする。そして小さく「は」と息を漏らし、いいかよく聞けよ、と念を押す。

「・・・心まで欲しいと思ったのは、おまえが最初で最後」

その言葉を聞いた香はかすれるような声で、ほんとう?と言う。その顔があまりにもあどけなくて、頼りなくて。だからリョウの心臓が音を立てて締め付けられる。

「ほ ん と う」

殊更ゆっくり言うと、香の頬をなでる。

わずかに頬を染めた香は、また、花が開くように微笑んだ。















ようやく終わりました。いや、終わらせました?
一貫性のない部分があるかと思いますが、お付き合いいただいてありがとうございました。
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