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in 声をきかせて《完》

声をきかせて(11)

-4 COMMENT
お待たせしましたⅿm(_)ⅿm







「あれから4日か・・・」

閑散とした平日のキャッツに静かなつぶやきが漏れる。

「その後、香さんの様子はどうなの?」

美樹の問いかけにミックは首を横に振る。

「カズエの話だと眠ったままだってさ」

「そう・・・」

あの日、美樹の手助けの甲斐あって、リョウは香の意識の中に入ることができた。
暗闇を進んでいくと、真っ白なワンピースに身を包んだ香が倒れていた。
名前を呼びながら声をかけて近づいていくリョウに対し、香はそれを拒むかのように逃げ出した。急いで追って捕まえたリョウは香に自分の本当の気持ちを告げるのだが、その途端、香の意識の外へ追い出されてしまった。



それから香は目覚めない。



リミットの48時間はとうに過ぎた。
最後の頼みの綱だった「香の意識の中へ入る」ことも奪われたまわりは、諦めたくないと思いながらも、どこかで静かに心の準備を始めていた。香が「このまま」であることの。

リョウは、日に日に憔悴しきっていて、アパートにいつ戻っているのかさえ親しいものでも分からない。確かなのは、一日に一度は必ず香のもとへ行っていること。それだけだった。
キャッツにもあまり寄り付かなくなった。香との思い出のある場所は無意識に避けているのかもしれない。


「あ、あれって」

「ん?」

美樹とミックの視線の先には、向かいの道路を歩くリョウらしき姿が。

「・・・」

「・・・」

二人は目を合わせてため息をつく。

「・・・こりゃ相当キテるな、リョウのやつ」
「・・・ええ」

今しがた向かいの道路を通っていた友人は、まるで別人のようで。本人を知っている人から見ればとても同一人物とは言い難かった。香と生活するようになってそれまでの殺伐とした雰囲気は徐々に薄れていき、最近では柔らかささえ感じさせるほどだったが、今は。
それこそかつて相棒を組んでいたミックは、昔を思わせるリョウの姿に胸を痛めていた。
生きることに意味を見出だせず、何をしても誰といても心を動かすことはない。
鋭い殺気を隠すこともせず、誰も寄せ付けないその雰囲気は、新宿の顔なじみでさえも近づけることはしない。
ただ。唯一香のそばでは、その空気が一変するという。
無言で入り、無言で出ていく姿に教授さえもかける言葉をなくしているらしいが。


RRRRR・・・


「!」


急に鳴った電話音に同時に美樹の体が跳ねる。
海坊主が静かに受話器を取る姿を横目に見ながら、美樹はそっと息を吐いた。
電話が鳴るたびに思わずにはいられない。これが「いい知らせ」であってほしいと。


***

もはや日課となりつつある教授宅への訪問。
部屋の扉を開けるたび、わずかな期待と圧倒的な絶望が俺を襲っても、これをやめるつもりはなかった。
ベッドに横になる香の姿を目に焼き付けては、アパートでの寂しさを紛らわす。

――寂しい?
ふとよぎった言葉に自分の思考を止める。

――「寂しい」って何だ?

これまで生きてきた中で「寂しい」なんて感じたことはあっただろか。
自分に親がいないと知ったときも、それこそ天涯孤独の身だと知ったときも、おやじに裏切られたと知ったときも、こんな気持ちにはならなかった。
何かが物足りなくて、いつも満たされない。
ふとした瞬間にいろんなことを思い出す。
声がきこえた気がして姿を探してしまう。
あいつだったら、とそばにいることが当たり前のように考えてしまう。
夜眠るときに思い浮かべると、胸が潰されるように痛む。
身体の奥から何かがじわじわと湧き上がるように、自分自身を追い詰める。

これ、「寂しい」っていうのか?


俺、寂しいのか。



香の顔を見ながら、ふ、と息を吐く。
今日は顔が少しだけ窓側に傾いている。

「・・・なぁ、香。聞いてくれよ。俺、今『寂しい』らしい」

返事もないのに言葉をかけることはいつものこと。構わずに続ける。

「この俺がだぜ?笑っちゃうよなぁ。・・・はっ、『寂しい』って何だよ。こんな気持ちになるの、リョウちゃん初体験なんだけど」

胸元に置かれている香の手を取る。香の指先はひんやりしている。

「親がいないって知ったときも、おやじに利用されたって思ったときも、こんな気持ちにはならなかったんだけどな・・・。あ、槇村のときは少し別だぜ?怒んなよ?」

香の手を自分の頬に寄せる。

「お前がいないと、俺、『寂しい』らしい」

「朝ハンマーで起こされて、お前の小言聞きながら飯食って、ハンマーで潰されながらナンパして、キャッツでコーヒー飲んで、夕飯食って、また小言聞きながら夜飲みに出かけて、っていう生活、何年もしてただろ?」

香の手のひらを唇に寄せる。香の温度を感じる。

「もうさ、それなしじゃ俺、だめみたいなんだよなぁ・・・」

らしくもなく、本音をぽつりと漏らす。

「寂しいんだよ・・・、香・・」

限界、とばかりに目を閉じて香の手を握る。

「寂しいよ」

祈るようにもう一度呟く。

「・・・なぁ、頼むから、」


視線を上げて香を見る。







が。



・・・ん?








何か。






耳、赤くないか?







「え、・・・か、かお、り・・?」

















「そろそろいいじゃろ」


「!!」


突然開いた扉に驚いて後ろを振り返る。

「何じゃ、わしの気配に気づいとらんかったのか?お前らしくもない」
よくよく考えれば、このタヌキじじいが廊下で俺の言葉を聞いていたと簡単に想像できるが、如何せん、いまはそれどころじゃない。

「きょ、教授、そろそろって・・」

「寝たふりはもういい、という意味じゃよ。のう?香くん」

「!」

勢いよく振り返ると、そこにはシーツを顔まで引き上げ、目だけこちらを見ている香が。


「え、・・い、いつ・・」

咽喉が乾いてうまく声が出ない。

「今朝じゃよ。お前の携帯電話に何度も電話したんじゃが、一向に繋がらん。美樹くんへ連絡したが、店には来ていないという。仕方ないからお前が来るまで待ってたというわけじゃ。もっとも、香くんは本当に眠ってしまっていたようじゃが」

久しぶりに見る、目を覚ましている香の姿。
何度も何度も思い描いた、目覚めた香の姿。

でも。


「でも、声はっ、教授、香のこ」





「リョウ」








耳になじむ声。
少し鼻にかかった、優しい、甘い声。

後ろを振り向く。




「リョウ・・・」






「もともと香くんの声の原因は自己催眠じゃ。それが解けた今、・・・」




後ろで教授が何か言っていたが、俺の耳には入って来なかった。
かろうじて聞き取れたのは、扉を閉める音。

「かお、り・・・」

ゆっくりと距離をつめる。


香は。
細い腕で体を支え、ベッドからそろりと起き上がる。
ずっと寝ていたせいか少しだるそうだ。
重そうに頭をもたげ、視線を俺に合わせ、そしてすぐにそらした。
パジャマから覗く肌は透けるように白い。


「あ、あのさっ、ごめんね?迷惑かけちゃって、」

懐かしい、香の声。少し掠れているのはしばらく声を出していなかったからか。

「あたしっ、自分で自分に催眠かけちゃったみたいで、たはは…」

ずっと聴きたかった声。

「な、情けないね、みんなに心配かけてっ、」

そっと右手をのばし、

「って、リョウ!」

のばした手を阻まれる。

「何?」

「何、じゃなくてっ、この手っ!何!?」

「リョウちん、ちょっと限界なの」

「限界って、なっ・・!」
全部を言わせず、香を引き寄せ、思い切り抱きしめる。以前より薄くなった身体の香にしてみれば痛いほどかもしれないが、手加減ができない。そのままで2、3度深呼吸をし、香の匂いを体いっぱいに吸い込む。足りなかった何かが不思議と満たされる感覚。体の奥から温まる感じがして、息が漏れる。

「ちょっ、・・・りょ・・」

もぞもぞと動き出す香の耳元に話しかける。

「聞いてたんだろ、さっきの」

「さっき、って」

「お前がいないと寂しいっていうやつ」

「!」

もう隠さないし、ごまかさない。俺のちっぽけな意地のせいでおまえを失うなんざ、もう二度とごめんだからな。

「言っとくけど。あれ、本当だから」

「・・・え、」

「本音も本音、大本音」

「・・・う」

「うそじゃねぇし」

そこまで言うと香を引きはがし、視線を合わせる。
ここまで自分の本心を他人にさらけ出すなんてこと、したことがない。するつもりもなかった。でも、目の前のこいつを手に入れられるなら、そんなことどうでもいいと思う自分がいた。

「もう一度言うからな。今度は逃げんなよ」
そう言うと、香の肩に触れる手に力を込める。

「俺はお前が好きだ」

香の瞳が大きく見開かれ、しだいに薄い膜を張っていく。
零れ落ちそうになるそれは、俺の指で触れるとあっという間に決壊した。
そのまま抱き寄せ、

「しかも、相当」

と小声で付け加えた。髪の毛に唇を落とし、強く、強く抱きしめる。

「・・・・・・悪かった」

これまで傷つけてきたことへの。
香が声を失う原因をつくったことへの。

香の細い腕がそっと背中にまわる。

これまでの自分の行いが、こんなふうに自分の首を絞めることになろうとは。
香に惚れた時点でさっさと素直になっていれば、お前をこんなふうに傷つけずに済んだかもしれないな。そう思うと、自分の馬鹿さ加減に腹が立つ。腕の中にいる愛しい存在の変わりになるものなんかないって分かっていたはずなのに。それを認めるのが怖かった。認めたら最後、俺にとって香は不可欠な存在になってしまう。
この世界で危険に晒されず生きていくなんて無理だ。誰よりも大切な存在を巻き込みたくない、どこかで無事に生きてさえいてくれたら、と思ったのに。結局、俺の方が無理だったっていう話で。離れたくない、ずっとそばにいてほしい。でも、危険に晒したくない。そんな葛藤にさっさと覚悟を決めれば良かったんだよな。
そんな懺悔にも似た気持ちを抱え、さらに腕に力を入れた。



***


リョウの腕に抱かれ、香は思い出していた。


リョウが意識の中へ入ってきたあのときから4日、ずっと自分の中に閉じこもっていた。
リョウを拒絶したあたしはまた暗闇に一人になった。リョウに抱きしめられ、自分への思いを告げられた事実を追い出そうとしていた。自分をからかっているだけ、リョウは本気じゃないんだからと何度も言い聞かせた。そうして過ごした4日目のあるとき。
どこからか声が聞こえた。そう思った瞬間、小さなリョウが海原と思しき男と一緒にいる姿が見えた。あたしはリョウの生い立ちを話でしか知らない。だから今目の前に映し出される映像は、恐らくあたしの想像の世界だ。
兵士として育てられるリョウは過酷な日々を送っていく。
幼少期から少年へ。少年から青年へ。まるでコマ送りのように場面が変わる。
ある男がリョウに、ペンダントに入れた写真を見せた。どうやら男の妻らしい。目尻を下げ、幸せそうに語る男にリョウは眉をしかめて適当に相槌を打っている。そんなリョウを気に留める様子もなく男はリョウの背中を叩くと、何かを言って立ち去った。

大人になったリョウは新宿を歩いている。後ろから着いてきたのは・・・、
(アニキ!)
思わず叫んだけど、届くはずがない。アニキはリョウと何か話している。その視線の先には教会で式を挙げる1組の男女。
(懐かしい、アニキの笑顔・・・)
声は聞こえない。でも鮮明に思い出せる。懐かしさに鼻の奥がツンとなる。
幸せそうな男女を見ながらアニキはまたリョウに言葉をかけるが、リョウは眉をしかめて適当に相槌を打っている。そんな様子をアニキは目を細め、わずかに苦笑した。

リョウは真っ暗なリビングにいた。リョウのいる「今」が「いつ」なのか、あたしは周りを見渡す。整頓されたリビング、澄んだ空気。・・・たぶん、今は、あたしと住んでいる「今」だ。それは同時にアニキの「不在」を意味する。
リョウはバーボンのロックを片手に一点を見つめている。何を考えているのかは分からない。すると、おもむろに立ち上がり歩き出した。どこへ行くのか後をつけると、リョウが立ち止った場所は。
(・・・あたしの、部屋?)
リョウは静かにドアノブを回すと、中で眠るあたしの姿を確認する。近づいて、呼吸を確かめるように、右手で頬をなでる。

(なに、してんの・・・?)

状況が理解できない。リョウがあたしの部屋で、あたしの寝顔を見て、頬をなでて・・・!?
ちょちょちょっと待て。これはあたしの作った幻の世界よね?だったら、実際にリョウがあたしにこんなことしてたとは限らないわけで。
冷静に考えれば分かることだが、それも何だか寂しいような感じもする。リョウの後ろ姿を見ながら胸が痛む。やっぱり好きなんだということを痛感してしまう。

「    」


リョウの声が聞こえたような気がして耳を澄ます。さっきも、アニキのときも、声は聞こえなかった。

「無理だよな・・」

リョウの背中からわずかに漏れる声。


「俺が、将来を誓うなんて」



「将来」が何を意味するのか、これまで見てきた場面で簡単に想像できた。リョウはまた、「無理だよな」と静かにこぼす。それは、独り言のようでも、同意を求めるようでもあり、あっという間に闇に消えた。

これはあたしが作った幻の世界。想像の世界。実際にリョウがあたしにこんなこと言うはずがない。分かってる。分かってるけど―――。
あたしはこみ上げるものを抑えることができなかった。一歩ずつリョウに近づく。
もし、リョウがこの言葉をあたしに言った意味がほんの少しでもあったなら。
もし、ほんの少しでもあたしと同じ気持ちでいてくれたなら。
あたしはそれだけで―――。


そっと手をのばし、リョウに触れる。実際にはあたしの手をすり抜けるだけだが、頭を胸に抱き、目を閉じる。




(あたし、やっぱりリョウが好きだ・・・)





そこで記憶が途切れた。




あのあと、あたしは目を覚ましたらしい。
あの出来事は何だったのか自分でもよく分からないが、あれがきっかけで目を覚ましたことは間違いないだろう。


ぎゅっとリョウの腕に力が込められる。

(良かった・・・、帰ってこられて)

リョウの鼓動を感じながらあたしもまた、腕に力を込めた。







もう一つ続く予定です。

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- 4 Comments

There are no comments yet.

みぃな  

待ってました!

待ちに待った続きが読めて嬉しかったです(^_^)
最後まで目が離せません。

2017/03/07 (Tue) 21:41 | EDIT | REPLY |   

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管理人のみ閲覧できます

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2017/07/28 (Fri) 01:09 | EDIT | REPLY |   

ルミ  

次も楽しみです

次回更新も楽しみに待ってます。

2017/08/12 (Sat) 04:55 | EDIT | REPLY |   

yuhito  

あ~待ちきれない

いろいろ大変ですがゆっくりしてくださいね。
待ちきれないけど気長に待ってます♪

2017/12/11 (Mon) 23:04 | EDIT | REPLY |   

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