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in 声をきかせて《完》

声をきかせて(7)

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かずえがコーヒーを運んできたところで美樹が口を開いた。

「たぶん、自己暗示ね」

握っていた手に落としていた視線を上げる。

「何が原因かわからないけれど、香さんは自分で自分に暗示をかけている可能性が高いわ」

「それは何の暗示なの?」
かずえが心配そうに尋ねる。
美樹は再び視線を落とすと、首を横に振る。
「分からないわ。分からないけど、何かを閉じ込めたような、そんな感じだった」
まるで自分のことにように苦しそうに話す美樹。

「ミキ、それは治るものなのかい?」
かずえの隣にいたミックが聞く。

「・・・原因が分かれば、その可能性は十分にあるわ。でも、それが探れなかった」
香の声が出ないという状況が、困難にさせているようだ。



「リョウ」



重い沈黙を破ったのは海坊主だった。


「あぁ」


分かってる。何が言いたいのか。

「香の声が出なくなったのは、きっと俺が原因だ」

全員の視線が俺に向く。

「俺のせいだ」
ため息交じりになってしまったのは、思った以上にダメージを受けているからかもしれない。

「冴羽さん、どういうこと?」
眉をわずかに寄せたかずえが口を開く。

かずえ以外に口を開く者がいないのは、おおよその事情を察しているからにほかならない。

「・・・キャッツで。香の前で、恋人を紹介した」

「・・な・に・・・それ」

絞り出すように声を出したかずえは怒りで震えている。

「なんでそんなっ・・・!!」

思わず立ち上がったかずえをミックが制する。

「カズエ」
「だってっ・・!!」
かずえの手を握り無理やり座らせると、静かに視線を俺に移した。


この目は、本気のときの目だ。


「一番後悔しているのはコイツだよ。だろ?リョウ」
「・・・ああ」
「じゃあ、何とかしろよ」

そう言って立ち上がり、ドアへ向かう。
「え、ミック?」
かずえが慌てて後を追うと、海坊主と美樹も後に続いた。

「さんざんカオリを泣かせてきたツケが回ってきたんだ。せいぜい死ぬほど後悔しろ」
吐き捨てるように言うと、振り返ることなく出て行った。



長く息を吐く。


「ほっほっほっ。見捨てられたのぅ」

「・・・笑いごとじゃないですよ・・・。責められた方がましです」

ミックも海坊主も美樹も。静かな怒りをもってリョウを突き放した。
今までのことを振り返れば当然のこと。事態が事態なだけに、・・・痛い。

「で、策はあるのかね?」
「・・・いえ、全く」


策なんてない。どうすれば香の声が出るのか見当もつかない。
声だけじゃない。香の心も。どうすれば以前のように俺を瞳に映し出してくれるのか。
窮地に立たされることで見えてくる香という存在の大きさ。
駆け引きなんてしなくても分かっていたはずなのに。もうずっと前から。
自分自身に勝手に蓋をして見ないふりをしてきた代償がこれって、本当に情けない。
まだ何も始まっていないのに、エンディングロールを見せられた気分だ。



香はまだ眠ったままだ。
前髪にそっと触れる。さらりとした感触が心地よい。
部屋に籠りがちだからか、心なしか顔色がすぐれない。いつもの健康的な印象は影を潜め、儚ささえ感じさせる。

自分の気持ちに正直になっていればなんて、考えること自体初めてのことだ。
女なんて誰でも一緒で、男と女が一緒にいる理由なんて一つしかないとも思っていた。

薄く開いた唇から呼吸の音が聞こえる。


どうすればいい。


香の右手に触れる。
あたたかい。香の温度で、俺の他の場所もあたためられるような感覚。
そっと持ち上げ、自分の両手で包む。
すっぽりと収まってしまう香の手にちゃんと触れたのは初めての気がする。
白くてなめらかなそれは、どこからどう見ても自分とは違う生き物のもの。
「男女」だなんてよく言ったもんだ。そんなの、香を「女」として見ない俺の勝手な言い訳だ。さんざん傷つけて、泣かせて、「やっぱり好きでした」なんて、都合よすぎるよな。

香を包む手に力を込める。

少し力を入れただけで折れてしまうんじゃないかと思う。
この気持ちが溢れてしまったら、俺は今よりももっと香を傷つけて泣かせてしまうかもしれない。
正直、怖いと思う。
どうやって触れればいいのか分からない。

でも、触れたい。

誰かを思って恐怖を感じるなんて。この俺が。

自嘲気味に口を歪めると、ふっと空気が揺れた。



「香・・・」

しばらく視線をさまよわせていた香は、俺を見て状況を思い出したようだ。

「気分は?」
香は静かに首を縦に振る。

(美樹さんたちは・・・?)

「ああ、お前によろしくってさ。さっき帰った」

(そっか・・)

香の視線が俺の手に注がれる。握ったままの香の手。

(心配かけてごめんね)

眉を下げて声にならない声を俺に紡ぐ。




心配――か。




「ばぁか。ゆっくり休めよ」
くしゃりと髪をかきまわして、おどけてみせる。





心配だよ。



お前の体も、心も。頭の先からつま先まで、全部。攫われたとなれば心臓がうるさく跳ねるし、怪我したとなればえぐられるように痛い。笑っていれば陽だまりに包まれているようにあたたかいし、泣いていれば腕に閉じ込めて一晩中でもそばに置きたい。


でも、俺が一番恐れているのは。


「お前がいなくなったら」ということ。

お前を失ったら、「俺はどうするんだ」ということ。

手放そうとしていたくせに何をいまさら、と思うものの。それらの行動の原因は全てそれなんだ。
俺は俺のことしか考えていないんだ。お前を失ったあとの自分の心配。
目覚ましのハンマーもない。うまい食事もない。ワイドショーの感想とか特売の情報とか、俺にとってのどうでもいい話も、清潔に保たれた空間も、太陽の匂いのするシーツも、依頼がないという小言も、俺を呼ぶ声も、お前の笑顔も、全部。
出口のない闇に突き落とされたような不安が一気に押し寄せる。

無理だ。

お前に会えない自分がつらくて、耐えられそうにないから、最初からなかったことにすればいいと思った。手に入れなければ失うこともない。俺はそれを選んだはずだ。
それなのに。
お前のいない生活を考えられなくなっていたのは俺の方だ。








大っ変お待たせしました。すみません。
お返事もままならず、本当にすみません。
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