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in 声をきかせて《完》

声をきかせて(4)

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持っていた皿が勢いよく泡の中へ戻る。
急に体温が上がったのは,後ろにリョウがいるからだ。
この状況は何?

「・・・何してんの?」
「抱きしめてる」
「・・・何で?」
「・・・・・・」
「離して」
「・・・・・・」
「あのさ、本当に離してくれない?
状況が全然読めないんだけど」
「・・・・・・」
「リョウってば」
ため息まじりに名前を呼ぶと、腕がそっと離れた。

訝しげに後ろを振り返る。
何いまの?と視線で投げかけると、敏いリョウはそれを読み取り口を開いた。
「あ~・・・。妹への・・・抱擁・・・みたいな?」
思いがけない言葉にあたしの眉が上がる。
「いつからあたしのアニキになったのよ」
「・・・さっき」
「ふっ、なにそれ」
思わず笑みがこぼれる。何を言っているのか、この男は。
「リョウはさ、きっとアニキがいなくなってから、あたしの保護者であろうとしてくれてたんだよね。ときに父親のように、ときに兄のように。・・・まぁ、それにしてはかなり手がかかるけど」これまでのことを思い出して、また笑みがこぼれる。

「リョウなりにあたしのこと、大事に思ってくれてたの、分かってたよ。」

だから、幸せになってほしい。
あたしの大事な大事な「家族」だから。

「ありがとう」

リョウから目をそらさずに、今まで素直に言えなかったことを伝える。





***











「それで?」

隣でバーボンをちびちび飲む男に視線を送る。

「そのことと、俺がここでお前なんかと酒を飲むことに何の関係がある?」

「・・・・・」
「せっかくカズエと2人で食事しようと思ってたのに」
「・・・・・」
「カズエ、久しぶりの休みだったのになぁ」
「・・・・・」
「今夜はゆっくり過ごせると思ってたのに」
「・・・・・」
「カズエ、今ごろなに」
「だぁーーー!悪かったよ!」

ようやく口を開いた男を睨みつける。
「早く口を割れ」
オレとカズエのしっぽりタイムを突如邪魔をした罰は、ここでちゃんと償ってもらわないと気がすまない。

「・・・あいつ、おかしくないか?」
「どこが?カオリはいつもキュートじゃないか」
「なんか、落ち着いてるっていうか、変わったっていうか・・」
「たとえば?」
「・・・ナンパされたり」
「今までナンパされなかったって方がオレには問題だね」
「・・・そいつと明日会うとか言ったり」
「それは由々しきコトだな」
「・・・あんまハンマーないし」
「いいことだろ」
「・・・朝帰りしても何も言わないし」
「ますます好都合だろ」
「抱きしめても・・・反応ないし」
「・・・はっ!?」
何だそれ!?聞いてないぞ!

「なに、お前。彼女いるくせにカオリにまで手ぇ出したの!?」
揶揄した言い方にリョウは苦虫を噛み潰したように表情を歪めると、そっぽを向いた。

「彼女つくっても、・・普通だし」

何ともまぁ、面倒くさい男だ。
こんな手の込んだことまでしといて結局それかよ。



ようするに、だ。

「お前はさ、確かめたいんだよ」
オレの真意を探るようにリョウは視線をよこす。
「カオリが自分を見てくれているかどうかってことを」

奪うことに慣れている男はしかし、奪われることに慣れていない。
手に入れなければ失うことはない。失うことがなければ傷つくこともない。
そうやって生きてきた。そしてこれからもそうやって生きていくはずだった。

「手放すふりをして、カオリから離れるのを待っていたってところだろ?」
図星なのか、視線をオレから外すと、空を見ながら酒を煽る。
「自分に彼女ができればカオリはきっと傷つく。傷つけばいずれ自分のもとから離れる。そうすればカオリを危険な目に合わせることもなくなる。自分のそばにいなくても、どこかで生きていてくれさえすればいい」

違うか?と目だけで意思を問う。
わずかに顔を俯かせると、苦笑いを浮かべて「当たり、かな?」と隣の男は言う。
自分の気持ちを素直に認めるなんて、ずいぶん丸くなったもんだ。それほど追い込まれているってことなのかもしれないが。
しかし、ここで攻めの手を緩めることはしない。この男には少々荒っぽい治療が必要だ。もう二度とおかしなことを思いつかないように。

「そう思っていても、結局行動には移せなかったわけだ。カオリは出ていかない。でも自分から手放すこともできない。そうこうしているうちに、彼女とはうまくいかなくなる。まぁ、もともと何とも思っていない相手だからな。どーせ振られるようにお前から仕向けたんだろうが」

男が煙草を取り出したのか気配で分かる。

「彼女を作ったら、カオリはもっと妬くとお前は思っていた。傷ついて嫉妬しながら自分を思うカオリを見て、安心したかった。愛されてるっていう確信が欲しかった。でも手を出すことはしない。その勇気がない。手を出せば離せなくなるのは分かりきっていたからだ」

隣の男はライターで火をつける。

「そのうち、カオリが自分以外の男に目を向けようとしている事実に直面。焦ってどうしたらいいか分からなくなって、今、この状態ってわけだ」

紫煙を吐き出す男を横目に見る。

「ホント、バカだね、お前ってやつは」

火をつけて間もない煙草を灰皿に押し付ける男は、ため息をつくと頬杖をついた。

「・・・どうしたらいいか分からん」

つぶやくように言った一言は、きっと心から絞り出した本音だろう。

「セイシュンだねぇ」
茶化すように言うと睨まれる。
「ようやく、お前も本当に惚れるって意味が分かったんだろ?経験ばっかり積んじゃって、肝心の心がオロソカだったもんなぁ」

「・・人のこと言えるかよ」
苦し紛れに男は呟く。それに俺は勝ち誇った顔をしてやる。
「少なくとも、俺はお前のように逃げたりしてないからね。カズエと生涯を共にする覚悟を決めたし、本人にももちろん伝えたもんね」

俺の揶揄する言葉に反応することなく、男は無言を貫く。
やれやれ、本当に面倒な男だ。答えは決まっているだろうに。

「お前次第なんじゃないの?」

虚を突かれたように男が視線を寄越す。

「相手のこととか、自分の過去とか、そんなの言い訳だろ。結局は、自分がどうしたいのかじゃないか?」

肝心なところでオクビョウだからなぁと軽口をたたいてやる。隣で笑う気配がする。
2人でバーボンを追加する。


「それも当たり、かな」と聞こえた。








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