FC2ブログ
in スポンサー広告

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  • Share
in 声をきかせて《完》

声をきかせて(1)

-0 COMMENT
原作程度。









吹く風が白く濁って見える。

遠くで子どもが泣いている声が聞こえる。

(どうしたの?)

そう言って駆け寄るつもりの足が、今の私にはない。
地面に張り付いたようにまるで動かなくなってしまった私の足。
自分の足を叱咤しようと手を伸ばすけれど、その距離がひどく遠い。
結局、指一本も動かせずにあきらめた。

じゃあせめて声だけでもかけようと、唇を開くけれど。
喉をふりしぼって声を出そうとするけれど。
声が出ない。
声の出し方が思い出せない。




・・・そうか。
私――。





***


「「つ、付き合うぅ?!」」
「そ♪」


その場にいた人間はその驚きに思わず声をそろえた。
重大発表をした当の本人は涼しい顔をしている。

その横には一人の美女。

―――松崎詠美。
先日まで依頼人、「だった」女性。

今、この瞬間から「リョウの恋人」になった。


***

どこをどう帰って来たのか思い出せない。
なぜ自分が公園にいるのかも。





・・・そうか。
私――。



「失恋しちゃったのかぁ。」

ぽそりと呟いた声は、うまく出ず、唇のみが形をつくる。







「なっ、どういうこと!?」
「付き合うって、本気なの!?冴羽さん!!」
「香さんはっ・・・!!」

回りが騒ぎ立てるほど、冷静になって行く私の思考。
口に運ぶはずのカップをソーサーに置く。
わずかに手が震えた。

「香さん!」
美樹さんがあたしを見る。
さっきの重大発表から一言も発しないあたしを責めるように。




あたしに何を言えっていうの。
あたしに何が言えるというの。


絞り出したのは、

「いいんじゃない?」

精一杯の虚勢だった。

あたしの発言が予想外だったのだろう。
その一言を聞いたリョウ以外の人が一斉にあたしを見る。

「リョウが誰と付き合おうと、あたしには関係ないもの。」
・・・あたしってすごい。
いつの間にこんなに舌が回るようになったのかしら。

珍しく動揺の色を隠したあたしの大嘘は、
きっとみんな見抜いている。
美樹さんが何か言いかけようとした瞬間、
「本命が出来て、少しはいつもの悪い癖が直ると助かるわね。」
などと、オプションまでつけた。


あたしの嘘に乗ってきたのはもちろんリョウ。
「でっしょう~!?
いつも香ちゃんに迷惑かけてリョウちゃんちょっと反省したの。
だ・か・ら、いい加減本命つくって香ちゃんに楽させてあげようと思って♪」
いつものおどけた口調。

「あっそ。そりゃどうも。
って!今度は詠美さんに迷惑かけたら承知しないからね!
詠美さん、コイツ、ホンッットどうしようもない女好きだから!
泣かされたら言ってね。
ハンマーでぶっ飛ばしてやるから!」
あたしはカウンターから、二人のいるソファーへと体を向け、
わざと大きくジェスチャーをする。
元依頼人はくすくすと笑い、
その隣にいるリョウは「ハンマー」という言葉に苦笑い。

周りの視線をわざと避けるように
あたしとリョウの会話は進んで行く。

やがて、しびれを切らしたかのように海坊主さんが
コーヒーのおかわりを勧めてくれたけど、
あたしはやんわりと断り、
その場を後にした。


なんとか足を動かし、ベンチへ座る。
キャッツでの出来事を何度も頭の中で思い浮かべる。
リョウの言葉を何度も反芻する。
その度に湧き上がる恋慕、失望、未練の数々。

特定の女性を持たないリョウが
ついに恋人をつくった。
その気になれば、いつでも恋人と呼ぶ女性は出来ただろう。
でも、そうならなかったのは、
リョウがつくろうとしなかったから。

そのリョウが恋人をつくったってことは、
よほど素敵な女性だった、ということ。
よほど傍に置きたい女性だった、ということ。
ただ、それだけ。

自分が誰より近くにいながら、
一つ屋根に暮らしていながら、
「そう」ならなかったというのは、
自分は女として見られていなかった、ということ。
自分は魅力がなかった、ということ。
ただ、・・・それだけ。

もう、どうにもならない。
もう、変えられない。

諦めにも似た感情が、あたしを侵食する。



どうにかなると思ってた。
リョウが特定の恋人をつくるまで、
リョウが誰かを好きになるまで、
まだあたしにもチャンスがあるって、夢見てた。

でも。

物理的な距離は近くても、
見えない距離は縮まりはしなかった。
最後の一線が果てしなく遠い。

どれだけ想っても、どれだけ愛しても、
もう、どうにもならない。
あなたがあたしを見ることは、もう、ない。

ほんのわずかな可能性さえ奪われた
秋の午後。





この想いはどこへ行くのだろう。








スポンサーサイト
0
  • Share

- 0 Comments

There are no comments yet.

Leave a comment

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。